民家ホテル「金ノ三寸」の斜め向かいに白いおしゃれな建物ができました。
高岡の老舗 美術鋳物メーカ-株式会社 平和合金さんのあたらしい試みです。
平和合金さんは製作商品の幅を小さいものはジュエリーから大仏クラスの大きいものまでに広げ高岡では貴重なメーカーとして業界の発展に大きく寄与されておられます。
そんな美術鋳物メーカーがなぜに画廊を金屋町にオープンさせたのかお話をお聞きするため画廊のドアをたたいてみます。
喜泉堂との関係
民家ホテル「金ノ三寸」には「喜泉堂」の商品が生活の中で感じられるようにと設えてあります。それらの商品のほとんどは株式会社 平和合金さんが鋳造していただきました。
画廊の紹介の前に一体どんなお仕事をされているのかどこのポジションを担っておられるか簡単にご紹介いたします。
香炉製作
鋳物とは上下2つの型を使って作りたいものの空間を作りそこに溶けた金属を流し込んで製作されたものを言います。通常その型の素材は高温に耐えれるものを使い型と製品が容易に分離できるものであることが要求されます。故にその制約の中でしかものつくりはできないこととなり複雑な形状のものを製作する場合はパーツで作って後で溶接する等の方法を選択しないといけませんでした。「喜泉堂」の商品はすべてがその制約を超えた物になっています。平和合金さんはその制約を克服するため新しい鋳造方法を取り入れられ製作されています。
ロストワックス鋳造
製作したい商品の原型を用意します。これが物つくりのスタートとなります。これをもとに
ゴム型を作成します。使用する型をゴムで作ることで柔軟性が増し複雑な形状のものでも型との分離が可能となります。ただしゴムは耐火性が弱く1200度で溶解した金属に耐えれません。そのため一旦ゴム型にワックスを流しワックスで製品となるもの成形します。
それに鋳型となるべくシェルをまぶし鋳型を完成させます。それに熱を与えて中のワックッスを溶かし取り除き出来た空間に溶けた金属を流し込んで製作します。一旦作ったワックスを取り除くことからロストワックス鋳造と呼ばれています。
以下がその工程となります。
ゴム型にワックスを流しこみます。ゴム型はそれ自体は自律性が低いので石膏をバックアップに使います
出来たワックスパターンを鋳型で覆います。てんぷら粉をまぶす要領で最初は細かな材料とし徐々に荒く強度のある材料にしていきます。ここで約1週間は必要となります。
鋳型を約800度で熱して中のワックスを取り除きます。脱蝋といいます。
鋳造前に鋳型を熱くし中の不純物を焼き除くことと鋳造時の金属の流れをよくします。
1200度に溶けた金属を鋳型に流しこみます。鋳造です。
鋳型が冷えるのを待って型ばらしを行います。この鋳型は一回きりの使い捨てです。これを経て商品の顔がやっと見えてきました。
ここまでを平和合金さんが担ってくれます。この後、仕上げを経て研磨、着色を行い完成となります。完成までの道のりは長いですがその約半分を平和合金さんが受け持ってくれていることからもその役割の大きさがわかります。
話題を戻し画廊の中に入ってみます。
陽峯(ようほう)オープン
陽峯という名前は平和合金の屋号をギャラリーの名前とされたそうです。そこには現在の金屋町は物作りの町の面影が感じにくくなってしまっていますがかつてはこの町で盛んに物つくりがされていたことをここを通して発信していきたいという120年続く老舗銅器メーカーの熱い思いがあります。
中に入ってみましょう。金屋町のお家の特徴は間口が狭くて奥行きが長く「ウナギの寝床」といわれるほど細長いお家が多く陽峯さんもご多分に洩れません。長いフロアの一角に
横になった石膏像があります。鋳型作りを再現してあります。大きなものを鋳造するときは香炉を作る方法とは異なる方法を用いるそうです。上下2つに見切り上型と下型をそれぞれ砂を材料として作成し上下の型を合わせます。写真は下型を作成しているところです。
中にはスタッフがおられて説明していただけます。お気軽にお尋ねくださいとのことでした。
長谷川町子美術館
奥に進むと見覚えのあるキャラクターが、サザエさんがいらっしゃいます。サザエさんの生み親、長谷川町子先生の活動を記した長谷川町子記念館にはサザエさんの一家が平和合金さんの技術をもって製作され展示してあるそうです。その原型がここに展示してあります。人物象や仏像など等身大もしくはそれ以上のものを作る技術を持つメーカーとなると著名な意匠の製作依頼もあるそうです。それぞれに意匠があり勝手に公開はできないものですがサザエさんは長谷川町子美術館の厚意で特別に許可されたそうです。
セレクトショップ
中庭を挟んだ奥にはセレクトショップとなっています。現在は3社の代表的な商品が売られています。
佐野政製作所
多彩な技術を持ちオーダーメイド品の受注をこなす高岡銅器のメーカーです。
ここではその技術を駆使して作られたオリジナルの商品が並べられています
煌雲本菅笠 高岡民芸
高岡市の伝統工芸の一つ菅笠の技術を継承し自ら菅を栽培しそれを用いてオリジナルの商品開発を行っています。
菅笠の照明はアイデアとしては大変に面白いですね。
株式会社ハシモト清
老舗高岡仏具問屋3代目社長のアイデアで本来はお香をたく器として企画製作された香炉に多肉植物を植えるという試みに力を入れておられます。新しい用途の提案による販路開拓を試みておられます。重厚な金属の香炉が多肉植物とコラボすることで一気にカジュアルになりますね。
ここに来ると一歩踏み込んだ高岡銅器を見ることができます。普段は出来上がったものしか見る機会がなく製作のプロセスまではなかなか知るすべがないのが現実ですが、実際に製作に携わっているメーカーが本気を出したらそれが可能になるんです。これからの高岡銅器は出来上がった製品だけでなくその物が持つバックグランドをもっとアピールすべきです。金ノ三寸でもいろいろと企画したいと模索してます。近くに心強い画廊が出来、いろいろな可能性が膨らみ楽しみが増えました。