民家ホテル「金ノ三寸」の名前は鋳という字を分解して付けてあります。金ノ三寸がある金屋町は高岡銅器の生まれた町で鋳物の町といわれていることからこの町にちなんだ名前にとなっています。ホテルの中には鋳物が生活の中で感じられるようにしつらえてあることもこの名前の由来となっています。
高岡銅器の技術は幅広く、小さいものはジュエリーから大きいものは大仏に至るという幅広いものに対応することができます。作るものに適した鋳造技術がありそれぞれに対応できる技術が狭い高岡に集まっているということになります。
そんな高岡銅器が発祥したのがここ金屋町です。さかのぼること今から400年前、加賀藩の統治下であったここ金屋町に産業をと7名の鋳物師を招聘して厚く加護したのが高岡銅器の始まりです。そんなこともあり昭和の時代までは多くの職人が金屋町を仕事の場所としており金属音が絶えない町でした。ところが最近は環境や安全性、仕事の効率性などの問題から郊外へと職場を移転する傾向が強くなり金屋町は大変に静かな町になりました。
民家ホテル「金ノ三寸」は2棟の貸し切りのホテルとなっています。それぞれを「八」と「月」 としました。今はそれぞれの棟の柱にひっそりとではあるけれどしっかりとネームプレートが掲げられています。このネームプレートは銅鋳物製で実は金屋町で作られました。無理をお願いして製作していただきました。金屋町にこだわり鋳物町を支えて「銅器の町金屋町」を自ら推進しておられる鋳物工場があります。訪ねてみようと思います。
金屋町石畳通りを外れた通りの住宅地の一角に明らかに住宅ではなさそうな門構えが目に飛び込んできます。時代を感じる看板には「今井合金鋳造所」と表示され型枠と思われる鉄枠がスタッキングされておりその後ろには巨大な煙突が!何!只者ではない雰囲気が漂っています。
奥へと足を進めます。(本来は関係者以外立ち入り禁止の場所ですが今回は特別に許可をもらって見学させていただきます)
木造建物の時代を感じる建物が奥に見え、嗅いだことのないにおいが漂います。緊張感がいっぱいです。特別なことが行われていることが空気感で伝わります。(後から聞いたところによればこの匂いは亜鉛が溶解した時に出るにおいだそうです。なれない人が吸うと酔ってしまうこともあるらしくマスクは必然だそうです。また、溶解する金属は銅100パーセントではなくて亜鉛やその他の金属を加えた合金だそうです。そうすることで溶解した金属がスムーズに流れたり鋳造後の加工がしやすく着色もしやすいなど鋳造後を配慮した選択だそうです。
木造の建物の中に入ってみます。男性が立ち上る炎に長い鉄の棒をいれかくはんしています。ピーント張り詰めた空気感の中で鋳造に備えて溶解炉にて銅地金を溶解している途中だそうです。銅は約1200度で溶解します。ここではガスの火力を使って使う銅地金の量にもよりますが1時間半ほどの時間をかけて溶解するとのことです。そのタイミングはなんと温度計を使うのではなく立ち上る炎の色と勘で判断するといっておられました。
準備が整うまで工場の中をぐるりと紹介します。
天井がすごいです。建てられた当時昭和10年当時のものがそのまま残っており現在もしっかりと機能しているのには驚きました。照明事情がよくなかった当時の貴重な明かりがここから入ってきたのだと思います。材木は炎のすすでコーティングされて火の粉がかかっても延焼しなくなっていることです。火を使う仕事ゆえ火災への配慮は特にされているとおっしゃっておられました。金屋町はたくさんの火災が発生しています。いったん火災が発生すると町屋故延焼の恐れもあるのでより神経質になるともおっしゃっておられました。そういえばここが鋳物の町として選ばれた理由にはいったん火災が発生しても近くに有る千保川が延焼を防ぐことからもあったと聞いたことを思い出しました。
視線を下に向けるとさっき正面にスタッキングされていた鉄枠に泥が詰められた塊が3個並んでいます。これが鋳型です。この中に作りたいものが空間として存在しその空間に解けた金属を流し込みます。両サイドにある大きな穴はそこから金属を流し込むためのガイドだそうで湯口というらしいです。四隅のスチールの棒は金属を流し込んだ時の型のずれが発生することを防ぐための抑えだそうです。話が深すぎて感動の連続です。ちなみにこれはトンネルの入り口に設置される銘板だそうで国交省のお仕事だそうです。
ここで少し鋳物についてお話をさせていただきます。
鋳物とは型を使って作りたいものの空間を作りだしそこに解けた材料を流しこんで作られたものの総称です。つまり銅鋳物とは銅を溶かして型に流し込んで作られたものをいいます。空間の作り方がいろいろありそれがいわゆる鋳造方法と呼ばれています。今回の場合は鉄枠に固められた土が鋳型ということになります。鋳型は基本2つで構成されます。今井合金鋳造所様は橋やトンネルまたは会社等の銘板を製作する高い技術を持っておられます。ここではまず作りたいものと同じものを木を使って具現化します。これが木型となり原型となります。この原型を上下の鋳型に押し当てて木型を形状を土に転嫁し木型を取り出して再び重ね合わせて空間を作成するというプロセスとなります。
そうこうしているうちに炎の色が変わってきました。いろいろな金属が反応しているとのことです。
どこを見ても味わいがありすぎてワクワクします。見たことないものばかりです。
人が集まってきました。人の動きが突然ときびきびとしてきたのがわかります。何かが始まる予感が見ている者にも伝わります。
赤くなった炎に加え白い噴煙が黙々と生きおいよく立ち上りだしたその時溶解炉に人がさっと集まり大きな柄杓をセットしました。溶解炉が傾き解けた金属が流れ出します。熱風を感じると同時にとてつもない緊張感が。2人の鋳物師が力を合わせて柄杓を持ち上げセットされた鋳型に金属を流し込みます。掛け声とともに。クライマックスです。
時間との闘いと言っておられました。作業は15分ほどでしたがほぼ息つく暇もない一瞬の出来事と見たことのない光景をまじかに見た高揚感はまだ目を閉じても鮮明によみがえります。映像では決して伝わらない迫力と温度感とにおいは見たものでないとわからない感覚です。この瞬間は鋳物師の皆様にとっても大変に緊張するそうです。それはこの作業を失敗するとこれまでの工程をすべてだめにしてしまう可能性があることと一つ間違えれば命をも落としかねない危険な作業だからだそうです。納得です。
この後、鋳型をばらし鋳物を取り出し仕上げて色を付けて納品となるそうです。
ここからは撮影は許してもらえませんでした。クライアントとの信頼関係は大切にされておらえることも大変によく伝わり大満足の見学となりました。
今井合金鋳造所様は金屋町の住宅地の一角にある金屋町では貴重な鋳造所です。決して広い工場ではないけれどここでの仕事は時には誰もが知っているものの銘板を作られたりパーツを作られたりされる貴重なお仕事をされています。真剣勝負を目の当たりで見て職人さんがかっこいいと本心思いました。こんな仕事や人をもっと知ってもらいたいとも思いながら工場を後にしました。
今井合金鋳造所
https://metalworking-138.business.site/
見学は基本出来ません、ホテルを通していただけますとタイミングが良ければ
見せてもらえるかもしれません。