takaoka_walk
伝統工芸士 京田政春
2023.8.30 up

■仕上げ士、京田政春氏とは

富山県高岡市金屋町は高岡銅器発祥の地です。加賀藩2代目藩主 前田利長公が金屋町に7人の鋳物師を招聘し手厚く加護したことが高岡銅器の始まりと言われています。

高岡銅器は型を使って作られた空間に解けた金属を流し込んで作られたものをいいます。

その工程はほぼ分業となっており一つ一つの工程にそれを生業とするプロの職人がいます。

京田政春(以下京田氏)はその工程のうち「仕上げ」という工程を担う伝統工芸士です。(伝統工芸士とはその産地で12年以上の経験を有し実技、知識、面接試験をクリアした産地の技術者の目標とも言える存在で後継者の育成など産地振興に対して大きな期待を寄せられる人をいいます)。

京田氏の仕事は鋳造により形となった製品の品質をさらに高める役目を担います。それは型と型の合わせ目を修正したり、金属がしっかり行き届かなかった部分を補修したりといった不良とみなされる部分の補修と目鼻立ちをさらにきっちりと表現したり花鳥風月等の模様をよりきれいにするなどのブラッシュアップ、違う金属をはめ込む象嵌など付加価値を高める等、より完成度を高めるための地味ではあるが大変に重要な役割を担っています。

京田氏は仕上げという役割を50年以上一途に担う中で彼が持つ独特の感性を彼独自の作品つくりにも生かし多くの作品を生み出してもいます。現在なお、仕上げ士としてかつ作家として活躍する、高岡銅器業界では貴重な存在となっています。

民家ホテル「金ノ三寸」は京田氏の生き方、作品に大いに共感し、ホテルという立ち位置から何ができるかを考え京田氏との取り組みを進めています。

■「はき倒す」~京田政春のこだわり

「はき倒す」時に京田氏は作品と向き合うときにそう言った厳しい言葉を使います。標準語で「殴り倒す」といった表現が一番近い言葉ですが作品に対する愛がある分ニュアンスは微妙に異なるといいます。金属の塊からカタツムリやカエル、カブトムシを作り上げる京田氏の技術は金属と真摯に向き合い一気に全く別なものそして高い価値を持ったものへと変化させる。「はき倒す」はそんなときに京田氏はよく口にします。金属との真剣勝負を楽しみそれに勝利するための精神統一があってこそのこの言葉は決してマイナスな言葉でもなく逆に作品を前にして大いなるリスペクトが感じられる言葉と感じられました。

<金属の塊から削りだしたカタツムリ 金ノ三寸・八の棟>

鋳物となった作品を前に京田氏はまず全体を少し距離を置いて眺めます。左右のバランス確認するためです。美しく仕上げるためには左右のバランスが大事と目を細めます。さらには一つ一つの模様に目を向けます。手元には常に図鑑や専門誌を置いて実物を確認しながら作業を進めます。

常に自然界のものを仕上げという観点で見るうちにいろいろなこのものの詳細が京田氏の頭にはデータベースとしてインプットされており何も見ないでも勝手に手が動く対象がたくさんあるといいます。ものをよく見ることも仕上げ士の仕事といい出来上がりのイメージを頭に描き、ひたすら鏨を動かします。納得のいくまで線を入れ、見えないところにも気を配ります。線一本で全く違うものに変わることもある、その兼ね合いも大切で常に自問を繰り返す。それは京田氏がつくりたいものがより自然界に近いものだからであり京田氏が追い求める物つくりの姿、京田氏のこだわりといえるます。

<京田氏にイメージを伝えて製作してもらう。セミや樹木は溶接ではなく一体もの。金ノ三寸・八の棟>

■技術を知ってもらい、自らアピールする必要も

70歳の後半を迎え京田氏はまだまだ衰え知らずである。求められる限り金づちを振り続ける。それは京田氏のライフワークでありそうすることが一番の健康維持の方法と言い切ります。「作りたいものが頭に浮かぶ以上はものつくりを続けたい。自らの技術を他の人が求めてくれる限りは現役を続ける。」これはこの先を見据えた京田氏の偽りのない思いである。そこには高岡銅器業界を背負ってきたという自負が感じられる。

ところが高岡銅器業界の話となると一転して眉をひそめる。今、高岡銅器業界はバブル期をピークに売り上げも減少し多くの市場を失い現在もその状態が続き抜け出せずにいます。新しい動きを起こし新しい市場を開拓し新たな販路のもと、業績を上げる企業は何社かは出てきたがほんの一部であり氷山の一角です。

多様な商品が展開され多様な仕事が生まれないと職人の仕事がなくなる。そうなると職人は育たなくなり後継者が育たないという業界の根幹を揺るがす問題が顕著化する。いわゆる後継者問題です。職人を育てる一番の方法は難しい仕事を含めたたくさんの経験を積むことではないか。もっとたくさんの仕事が業界に生まれるように努力をしてほしいと言う。

<京田氏の代表作品>

また、職人の在り方につき自らの生き方に合わせて次のような持論を述べる。業界に勢いがあったときは待っていれば仕事はやってきた。ところが最近は状況が変わった。待っているだけでは仕事が来るかはわからない。せっかくの技術を発揮する機会がなくなっては技術の向上にもならず衰退の危機でもある。特に仕上げという縁の下の力もちのような仕事は日の目を見る機会が少ない。もっと自らをアピールする必要があるのではないか。技術を知ってもらう。そうすることで新しい仕事が生まれる可能性も出てくる。その一番の方法が作品つくりではないか。作品を通して自らをアピールし技術を知ってもらう。最後は自らの名前を知ってもらう。仕事がないときは作品を作る。それはいつか必ず自分自身を語ってくれる。そう信じて。

京田氏の物つくりに目が離せない。

<京田氏の代表作品 目、爪、毛並みはすべて象嵌が施されている>

■民家ホテル「金ノ三寸」と京田政春

金ノ三寸はそんな京田氏の考え方、生き方、仕事に大いに共感しホテルを絡めた観光という観点と物つくりの双方から京田氏を応援するとともに京田氏が指導する2時間のワークショップを開催し職人が自ら指導する金ノ三寸オリジナルのワークショップ「銅板打ち出しによるレリーフ」製作も開催しています。

伝統工芸士の技を間近に見ながらその技術を使ってレリーフを完成させるというワークショップは金ノ三寸でしか体験できない企画となっております。

<京田工房にて>

動画もございます。ご覧ください。

銅板打ち出し体験の紹介動画

Book Now.